朝ドラ『なつぞら』(NHK)で、ヒロイン・奥原なつ(広瀬すず)の育ての父・柴田剛男を演じる藤木直人。彼は穏やかな包容力でなつを見守り、新シーズンを迎えた日本の朝に、あたたかな風を送り込んでいる。
藤木が演じる剛男は、戦友であったなつの父と交わした「どちらかが亡くなったときには、互いの家族の面倒を見る」という約束を果たし、なつを自然豊かな十勝に連れてきた存在だ。やがてアニメーションの世界へ飛び込んでいくこととなる、なつの豊かな感性が育まれる、そもそものきっかけを作った人物なのである。
そんな剛男は、柴田家では婿養子という立場だ。なつを家族に迎えたことから、彼が義理人情に厚く心優しい男だというのは明らかだが、たくましい妻・富士子(松嶋菜々子)や、ガンコな性格の義父・泰樹(草刈正雄)の前では、よくたじたじの姿を見せている。どのようにして富士子と、ひいては柴田家と彼が結びついていったのか、じつに気になるところである。
とはいえ、剛男の父親像には注目だ。義父である泰樹もまた、なつにとっては父親のような存在だが、彼の厳格な性格と、剛男の穏やかでどこかチャーミングな性格は好対照をなしている。普段から、映画以上にターゲットが幅広いテレビドラマへの参加が多いからか、藤木の演技は“分かりやすい”。言い換えると、演じる人物の心情が掴みやすいということである。彼が表立てて発する穏やかさは、視聴者にとって分かりやすく“なつの味方”である印象を与え、それは作品全体のあたたかさに繋がっている。
そんな剛男を演じる藤木は、かつて、朝ドラ『あすか』(1999-2000)で竹内結子演じるヒロインの相手役を務めている。今作で彼の妻役を務める松嶋も、かつては『ひまわり』(1996)で朝ドラヒロインを経験しており、この組み合わせの夫婦はまさに“朝ドラ100作目”に相応しいキャスティングだと言えそうだ。
ところで、藤木は俳優としての20年以上のキャリアの中で、膨大な数の作品に出演を重ねてきた。1995年、映画『花より男子』の花沢類役で華々しくデビューを飾ると、その後も絶え間なく映画・ドラマに起用。『喪服のランデヴー』(2000/NHK)で連ドラ初主演を果たし、菅野美穂とダブル主演を務めた月9ドラマ『愛し君へ』(2004/フジテレビ系)、 ドラマ放送ののち映画化もされた『ナースのお仕事』(フジテレビ系)や『ホタルノヒカリ』(日本テレビ系)シリーズなどの代表作も得ている。
大河ドラマでは、デビューから間もない頃ながら大役に抜擢された『徳川慶喜』(1998)や『平清盛』(2012)、昨年放送された『西郷どん』(2018年)での気品あふれる好演も記憶に新しい。また最近は、『FINAL CUT』(2018/カンテレ・フジテレビ系)や、続く『グッド・ドクター』 (2018/フジテレビ系)、今年の前クールに放送された『イノセンス 冤罪弁護士』(日本テレビ系)で、『なつぞら』の剛男役とは打って変わって、いかめしい人物を演じ上げていた。いずれも脇に回る役どころではあるものの、主要なポジションで作品や周囲のキャスト(とくに主役を演じる若手)を支えている姿が印象深い。
さらに、藤木がバラエティ番組のパーソナリティーや、ミュージシャンとしても活躍する存在であることは広く知られているだろう。つねにマルチな才能を発揮し続ける、エンタメ界にとって得難い存在なのである。
戦争経験者であること、婿養子であること、なつの育ての親であること……複雑な要素を抱える剛男という人物を、藤木はどのように演じていくのか。そしてそれが物語にどのように反映されるのか、剛男の変化にも注目だ。
■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。Twitter
■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)〜全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人/岡田将生、吉沢亮/安田顕、音尾琢真/小林綾子、高畑淳子、草刈正雄ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/
消息来源:https://realsound.jp/movie/2019/04/post-341548.html