天才シンガー現る!「リメンバー・ミー」藤木直人が見た、石橋陽彩という才能
「彗星のごとく」という惹句が、よく似合う。そんな天才シンガーの誕生を、ディズニー/ピクサー「リメンバー・ミー」で目撃した。日本版声優を務めた石橋陽彩(ひいろ)、13歳。まだ中学生の彼の歌声は、まるで色がついているかのように豊かで美しい。同じく声優として参加した俳優・藤木直人は、そのポテンシャルを前に「自分が足を引っ張らないようにしないと」とさえ感じたそうだ。末恐ろしい、その一言に尽きる。(取材・文・写真/編集部) [拡大画像]
「モンスターズ・インク」「トイ・ストーリー3」のリー・アンクリッチ監督が、1年に1度だけ死者の魂を現世に迎えるメキシコの祝日“死者の日”を題材にした、笑いと感動のファンタジーアドベンチャー。“ピクサー史上最高傑作”の呼び声も高く、第75回ゴールデングローブ賞の最優秀長編アニメーション映画賞を獲得したほか、アニメ界最高峰の第45回アニー賞では11部門を制覇、現地時間3月4日に発表された第90回アカデミー賞では長編アニメーション賞と主題歌賞の2冠を達成するなど、賞レースで圧倒的な強さをみせつけた。 主人公は、家族の掟で大好きな音楽を禁止されたギターの天才少年・ミゲル。あこがれのミュージシャンのギターを弾いたことをきっかけに、まるでテーマパークのようににぎやかな“死者の国”に迷い込み、家族がいる“生者の国”に戻るため冒険を繰り広げる設定だ。石橋はミゲル役を担当し、声優初挑戦ながら、子どもゆえの純真と無鉄砲、抑圧ゆえの恐れと不満を、場面に応じて器用に表現してのけた。インタビュー自体もほぼ初体験で、「緊張しながらしゃべってます」と苦笑したものの、口ぶりは堂々たるもの。コメントもプロ顔負け、13歳ながら積んできた経験値の高さを感じさせる。 石橋「初挑戦でこんな大役を演じられることは嬉しい限りでしたが、最初は緊張と不安しかなかったです。しかし、演じていくうちにミゲルの気持ちに近づけて出来たと思います。アフレコでは『小学校5年生くらいの高い声で』と指示されていて、ちょうど声変わりの時期と重なっていたので、高い声を出すことが一番難しかったです。最大限の高い声で演じさせていただきました」 [拡大画像]
一方で多彩な表現力を持つ藤木は、ミゲルが死者の国で出会うガイコツ、ヘクターに息吹を注ぎ込んだ。言動も外見も胡散臭いが、胸には「家族に会いたい」という悲痛な思いを秘めた重要キャラ。当初はミゲルを利用し、強引に生者の国に渡ろうとしていたが、互いの境遇を知るうちに特別な絆を育んでいく。 藤木「オーディションから始まりましたが、ワンシーンのセリフと歌を一部分歌うという短いものでも、アフレコ自体が初めてだったので大変な作業でした。僕に決まったと聞いて嬉しい反面、全編にわたってあの作業をするのか、という思いもありましたね。ヘクターの陽気さと胡散臭さは、どちらも僕にはない要素です(笑)。ただ、ヘクターは『家族に会いたい』という思いを抱えている。それは、僕も家庭を持って、子どもが生まれてすごく共感できる。そこの落差のため、一生懸命胡散臭く演じました(笑)」 ちなみにアフレコは2017年11月ごろに行われたが、別々で録音する方式が採用された。2人はお互いの声が入っていない映像に、心細さを感じながら向き合った。 アフレコで指示されたことは、具体的にはどんなものがあったのだろうか。石橋は「『全体的に大人っぽい』と言われてしまいました」と切り出し、「ミゲルのかわいい感じが出ていない、と言われてしまい、表現が難しかったです」と振り返る。これに藤木は「お芝居もほとんど経験がないんだよね? そうとは思えないくらい、ミゲルにピッタリ。一途な思いがすごく上手に表現されていた」と舌を巻き、「なんと言っても圧倒的な歌唱力。聞く度に感動していました。エンタテインメントの世界は結局、年齢は関係ないじゃないですか。すでに(表現者として)僕らと同じ立場にいるわけで、陽彩くんは素晴らしいものを持っている。僕は負けないように必死にくらいついて、どの部分で補おうかと考えていました」と称賛を惜しまない。 [拡大画像]
藤木の言葉通り、石橋の歌唱力には驚かされっぱなしだ。伸びやかで爽快感のある声質、声に思いを込める表現力、繊細な音程の上げ下げを自在に操る歌唱力。どれをとっても一級品、「ジャクソン5」のころのマイケル・ジャクソンをほうふつとさせる。石橋の歌声は、後のキング・オブ・ポップが世に現れた当時、観客はこんな感覚を味わったのだろうと想像させる、そんなインパクトがある。 劇中では、ひとときの惜別と永遠の記憶をつづりアカデミー賞の主題歌賞に輝いた“リメンバー・ミー(Remember Me)”などを歌った。「最初に歌ったとき、(日本版の)音楽演出の方にダメ出しされてしまったんです。普段の歌い方だとミゲルのイメージと違う方向になってしまう、と。技術的な表現は削いで、すごく高い音程で歌うことは難しかったです。普段より、優しい感じで歌っていました」(石橋)。 そして物語中盤、ミゲルとヘクターはひょんなことから、コンテストでセッションすることになる。それまでけん制しあっていた2人だが、言葉ではなく音楽で会話をかわし、「死んでるわりにうまいね!」「生きてるわりに、おまえもやるなあ!」と認め合っていく。 インタビューを通じて、ミゲルとヘクターの顔に、石橋と藤木の顔の面影を見て取れるようになった。2人も慈しみに満ちた親近感を、キャラクターに抱いていた。 [拡大画像]
石橋「ミゲルも僕も音楽が大好きで、2人とも歌手になりたい。そこの気持ちが一緒だったからこそ、自分なりのミゲルが出せたんです。自分が歌手を目指していなかったら、ミゲルを演じられなかったと思います」 藤木「自分も高校2年生でギターを持って、音楽をやっていきたい、ギタリストになりたい、そんな思いがありました。ミゲルを見守る気持ちはすごく理解できます。役もそうですが、僕たち自身も“相棒”ですね(笑)」
消息来源:http://eiga.com/movie/84135/interview/ |